子どものいない夫婦のために

子どものいない夫婦のために「遺言書を活用した相続対策」について説明する。ここで は、子どものいない夫婦が『資産家』の場合で説明するが、子どものいない夫婦の場合は、 資産家でなくても「遺言書」を活用することで財産の多寡とは関係なく「相続財産のすべてを配偶者に相続させる」ことができる場合があるので、その方法を紹介する。

『遺言書』を活用した相続対策の【具体例】

60歳を過ぎた夫婦に子どもはいない。夫の両親は、すでに他界していて夫は6人兄弟 の末子で年の離れた5人の兄姉がいたが全員亡くなって兄姉の子ども(甥姪)が全部で9 人いる。夫は会社を現在経営していて、夫名義の財産(課税財産)が3億円ある。

この状態でご夫が亡くなって「相続」が起きたときに、遺産分割と相続税はどのようになるでしょうか?

【ケース1】相続対策を行なわない場合(遺言書を活用しない場合)

相続対策を行なわない」ということは、具体的には「遺言書を活用しない」ことである。遺言書を準備しないで夫が亡くなって「相続」が起きた場合、相続人は配偶者と亡くなった夫の兄姉の子ども(甥姪9人)のために合計10人で相続することになる。

この場合に重要なのは、兄弟姉妹には相続に関する「遺留分」(法定相続分の1分の2 を相続させなければならない規定)がないために、夫が亡くなる前に「相続財産のすべてを配偶者に相続させる」という内容の「遺言書」を残していたならば、元もと遺留分のない兄弟姉妹の代襲相続人の「9人の甥姪」を相続人から排除することができるのだ。

しかし、夫が亡くなった後では、どうすることもできないので「9人の甥姪」から遺産 分割の申し出があったならば、それに応じる以外にない。配偶者と甥姪9人を合わせた10人による「相続」は次のようになる。

上記の「配偶者の財産比較表」の左の列(A)が相続対策を行わない場合(遺言書を活用しない場合)で右が遺言書を活用した場合である。

このことから、わかるように、配偶者の相続分が「4分の3」のために相続税の支払いは免除されるが、配偶者の手元に残る財産が2億2500万円(3億円×4分の3)で7500万円(3億円×4分の1)9人の甥と姪に相続させなければならないのだ。

それに対して、遺言書を活用して相続対策を行った場合は右側(B)になるために、法定相続分の3/4を超えるために1281万円の相続税を納めることになるが、納税後の 財産が2億8719万円残るために、遺言書を活用して相続対策を行うことで財産が6219万円(2億8719万円-2億2500万円)増えることになる。

【ケース2】「終身保険保険」を活用した場合

遺言書を活用した上で「保険=終身保険」を活用した場合は次のようになる。
(この場合の終身保険の保険金と払込保険料は同額の「5000万円」で計算)

上記の「配偶者の財産比較表」の左の列(A)が相続対策を行わない場合(遺言書を活 用しない場合)で右が遺言書を活用した場合である。

それに対して、遺言書を活用して相続対策を行った場合が右側(B)である。配偶者の 法定相続分の3/4を超えるために1281万円の相続税を納めることになるが、納税後の財産が2億9125万円残るために、遺言書を活用して相続対策を行うことで財産が6625万円(2億9125万円-2億2500万円)増えることが理解できる。

【ケース3】保険料を払い終わっていた場合

さらに、夫が法人契約で加入していた「終身保険」の保険料を払い終わっていた場合は次のようになる。

上記の「配偶者の財産比較表」の左の列(A)が相続対策を行わない場合(遺言書を活用しない場合)で右が遺言書を活用した場合(B)である。

配偶者の相続分が法定相続分の3/4を超えるために1281万円の相続税を納めるこ とになるが、納税後の財産が夫が会社で加入していた終身保険の保険料を会社が保険料を 全額払い終わっていたならば、個人としての保険料負担は「0円」で、死亡保険金5000万円が全額非課税扱(500万円×10人/相続人の数)になるために納める相続税は1281万円で変わらずに、配偶者の手元に残る財産が3億3719万円になるために、その場合の相続対策を行わない場合との差は1億1219万円にもなるのだ。

上記の例は、子どものいない夫婦が『資産家』の場合だが、子どものいない夫婦の場合は資産家でなくても(相続税は課税されなくても、いくらかの財産は残るのだから)その 財産を「全て配偶者に相続させたい」と思うならば、夫と妻がお互いを相続人とした『遺言書』を準備するべきである。

そのようにすることで、相続が起きたときに、意に沿わない遺産分割をしなくて済むだ けでなく配偶者の財産が大幅に増えることを理解するべきである。


編集責任者
ミロク保険の会
代表 長嶺恒雄