掛け替えのない保険を失うことに加入者は気付かない

法人企業が、経営者や役員の「万一のため」に備えながら、現役を引退する際の退職金を確保するために生命保険を活用することは悪いことではありませんが、そのために、長期平準定期保険や逓増定期保険といった、いわゆる「定期保険」を用いることが間違いなのだ。

その理由について、以下のとおり説明する。生命保険が果たすべき役割は「死亡するリスクに備えるため」であることは、説明するまでもなく誰でも理解していると思います。その上で保険料を算出するために欠かせないものに「生命表」というものがある。

「生命表」とは、0歳~100歳までを年齢別に1年毎の死亡者数と生存者数をデータベースにしたものです。それを手掛かりに考えれば気が付くはずですが、保険会社や代理店が、そのことには触れないために加入者の誰ひとり気付かない大事なことがあるのだ。

それは、生命保険が果たすべき、本来の役割であるはずの「死亡するリスクに備える」ことが、いつの間にか、完全に抜け落ちてしまっていることに加入者の誰ひとり気が付かないことです。その点について、次のとおりご説明する。

万一のために備えるための『死亡保険』として「定期保険」と「終身保険」の2つがある。両者の違いは「定期保険」は「掛け捨て」であるために比較的安い保険料で「大きな死亡保障」を買うことができる(加入できる)というメリットがある。一方の「終身保険」は、加入する保険金額と経過年数に応じて一定割合で「解約金が積み立てられる」点が「定期保険」と大きく異なる。

保険料については「定期保険」は、たとえ、どれほど多額の保険料を払い込んでも、保険期間の最後まで加入者が死亡することがなかった場合は、払い込んだ保険料は「すべて掛け捨てた」ことになって解約金は「0円」になる仕組みだ。

それに対して「終身保険」は、経過年数に応じて一定割合で解約金が積み立てられるために、同じ払込保険料を払う場合は、定期保険ほど大きな保険金で加入することができないという特性がある。

「定期保険」にせよ「終身保険」にせよ、加入者が、それぞれの特性の違いを理解して活用するのであれば問題ありませんが、管理人が思うには、そうではないと思う。それは、保険会社から「経営者保険」として勧められて加入した「定期保険」が、加入者にとって実際に、どれだけ「財産を失う」ことになるか理解していないからだ。そのことを解りやすく説明するので、この機会に正しく理解していただきたい。

定期保険は、加入するときの年齢が何歳であっても保障期間が終わる(または解約して消滅する) のは加入者の年齢で「60歳~70歳」であるのが一般的ですので、その間に死亡する割合は、僅かに すぎません。そのために、たとえ、どれほど高額な保険に加入しても実際に保険金が支払われることがなければ、それまでに払込んだ保険料が、すべて「掛け捨てた」ことになって没収される仕組みなのだ。

この説明に対して「そんなことはない。保険期間が100歳までの定期保険を70歳で解約すれば○○百万の解約金が戻ってくる」と反論したくなるかもしないがその理解の仕方が間違っているのだ。

その理由は、元もと保険期間が「70歳まで」と「100歳まで」では払い込む保険料が違うのです。たとえば、保険金が1億円で保険期間が50歳~100歳までの年払保険料が500万円というものであれば、50歳~70歳までの年払保険料は250万円というように違うのだ。

なぜ、保険料が違うのかというと、保険期間が50歳~70歳までと、50歳~100歳まででは死亡するリスクが違うのだ。そのために、契約する時点では、保険期間の最後まで保険料が払込まれる前提で保険料が計算されて、当初の予定通りに保険期間の最後まで保険料が払い込まれた場合は、保険料が、すべて消化されたことになって解約金は「0円」になるのだ。そのために、保険期間が50歳~70歳の定期保険の場合は、70歳で保険期間が満了した時点で解約金が「0円」になる仕組みなのだ。

それに対して、保険期間が50歳~100歳までの定期保険は、元もと100歳までの死亡リスクを引き受けるための保険料であるために、実際に払込む保険料が、保険期間が50歳~70歳よりも高くなるために両者の間には「差額」が生じます。その差額分が70歳で「解約」したときに「解約金」として返金されるのだ。

上記の説明を計算式にすると次のようになる。
{保険期間が50 歳~100 歳までの定期保険を70歳で解約した場合の計算} (500 万円-250 万円)×(70 歳-50 歳)=5,000 万円(解約金)

上記が、定期保険の解約金が支払われる仕組みなのだ。したがって、保険期間の最後まで保険料を払込んで、その時点で加入者が生存していた場合は、払込んだ保険料がすべて掛け捨てたことになって没収されることになる。

「定期保険」に加入することは「宝くじ」を買うことと同じだ。当たれば大きい「宝くじ」だが、当選する確率は、ごく僅であるために、宝くじを購入した大勢の人が、購入した代金を失うことになりる。

それと同じように、定期保険に1億円加入しようと2億円加入しようと、定期保険の保険期間内(一般的に60歳~70歳)までに死亡することがなかった場合は、それまで払込んだ保険料はすべて掛け捨てたことになるのだ。

実際に「50歳~70歳」の死亡率を、国勢調査を基にした「完全生命表」から読み取ると死亡率が「15.7%」なので、残りの「84.3%」は70歳を迎えた時点で「生存」していることになる。

企業の経営者が「70歳」で現役を引退して老後生活に入ってからのほうが「死亡するリスク」が高まるのだから、そうしたときこそ「保険を頼りにするべき」なのだ。

そのように活用されてこそ、生命保険の『本来の利用価値』があるのだ。それが、企業の経営者の退職金に当てるために「解約」して掛け替えのない保険を失ってしまうことが、その後の「相続対策」につながらないことになって、加入者が大きな財産を失うことになるのだ。

参考のために説明すると、経営者保険として50歳の経営者(男性)が70歳で現域を引退する前提で「1億円の定期保険(平準定期保険)」に加入した場合と「7,000万円の終身保険(低解約金型終身保険)」に加入した場合で、どれだけ違うかというと、相続人が3人(配偶者と子ども2人)で課税財産が1億円の場合で計算すると、相続税を納めた後の実質手取り財産が、定期保険よりも終身保険のほうが、2,143万円多くなる。つまり、定期保険に加入した場合は終身保険に加入した場合と比べて2,143万円の財産を失って損をすることになるのだ。

上記と同じ前提条件で「逓増定期保険1億円」と「低解約金型終身保険1億円」で比較した場合は、相続税を納めたあとの実質手取り財産の「」が、逓増定期保険に加入するよりも低解約金型終身保険のほうが4,236万円多くなる。

※上記の差額は、法人契約による保険料を損金計上した分の実効税率(法人税の軽減効果)を考慮しているために実質的な財産の差である。

このように説明すれば「なるほど、そうなのか」と、誰もが理解できて納得するのではないだろうか。働き盛りで健康状態に不安がなくて死亡するリスクが少ないときに「大きな保障の定期保険」に加入することを勧められて、現役を引退して老後生活に入って「死亡するリスク」が高まる頃になって、肝心の頼みの綱であったはずの「保険」を失うことに加入者の誰ひとり気付かないことに誰もが信じられない思いで呆然とするのではないだろうか。

先進各国を見渡しても、このような当たらない「宝くじ」を大量に購入して財産を失い続けている国民は日本人以外いないのだ。このようなカラクリを誰が考えたのだろうか。

日本は、世界の中で、保険の加入割合が最も高いことで「保険先進国」のように思われていますが、それは間違いで実際の加入内容は(死亡するリスクが殆どないものに多額の現金を消費していることは)先進各国の加入者は到底理解することができないもので、そのことを考えると日本は「保険後進国」なのだ。

今回、管理人が指摘した問題(保険会社が勧める「定期保険」に加入した場合は、相続が起きる前に保険期間が終わってしまうために「相続対策」につながらない。そのことで失われる財産が見逃すことができないほど高額であること)は、保険会社の一つの構想(思惑)が、すべてが呑み込む形になって、そのことが国の行政機関である金融庁の管理体制におかれて守られていることが大きな障壁になって「加入者にもたらされるべき利益が遮断されている」ことを正しく理解する必要がある。

その障壁を取り除くことは容易ではないが、大勢の保険加入者が一丸となって声を上げることで、それは可能ですので、決して諦める必要はない。そのために為すべきことは、まず、加入者の一人ひとりが、自分の保険契約を、そのままにしておいて問題がないか確認することだ。

管理人は、加入者がご自分の財産を守るためのアドバイスを惜しむことはしませんので、どのようなことでも、ご相談いただければと思う。